研究テーマ

ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)研究グループ

ドラッグ・デリバリー・システム(薬物配送システム、DDS)

 ほとんど全ての薬物は、本来の効能以外に副作用を有している。その副作用は、薬物が、最適な濃度を越えたり、目的としている場所(臓器)以外に分布したり、必要ではない時間に存在したりすることなどにより引き起こされる。つまり、体内の薬物分布を、量的・空間的・時間的にコントロールすることで、ほとんどの副作用の問題は解決できる。こうした薬物投与の最適化を目指したアプローチは、ドラッグ・デリバリー・システム(薬物配送システム, DDS)と呼ばれている。  
 薬物の体内での行く先(体内動態)を積極的にコントロールし、薬物本来の効能をより発揮させようとする試みは、ターゲティング療法と呼ばれ、DDSの中核を成す研究課題となっている。特に、制癌剤は、現在臨床使用されているものは、ほとんどが細胞を殺傷する作用を有しており、目的とする場所すなわち癌細胞以外の場所では、正常な組織をむしばむ毒となる。このことが、癌化学療法の発展の大きな妨げになっているのだが、癌という重大な病であるが故、副作用をもつ制癌剤でもやむを得ず臨床使用されているという現実がある。

高分子プロドラッグとは

 我々は、化学的手法による制癌剤の体内動態改善を目指して、巨大分子である高分子を薬の運び手(キャリヤー)とした「高分子プロドラッグ」化という手法について研究を重ねてきた。プロドラッグというのは薬物前駆体であり、本来の薬物と少しだけ違う化学構造をしており、そのままでは活性を示さないが、体内へ投与された後に化学的変化(代謝)を受けて、もとの薬物にもどって活性を示す化合物全体を指す。我々が研究している「高分子プロドラッグ」(下図)というのは、可溶性の高分子に体内で切断されるような結合方法で薬物を結合させたものであり、高分子に結合させることで薬物の体内での行く先をコントロールしようという試みである。

高分子プロドラッグ

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高分子プロドラッグはなぜ制癌剤に有効か

 この手法は特に制癌剤に対して非常に有効である。というのは高分子化合物は癌組織に集まりやすい性質を有しているからである。癌細胞は増殖が速く栄養分を多量に必要とするので癌組織周辺には新生血管とよばれる「急造」血管が多く発達している。この新生血管は急造であるが故、血管内皮細胞の並び方が正常血管に比べて粗雑であり、正常血管からはあまり漏れ出ることの無い高分子物質が漏れ出しやすい。通常、血管から漏れ出た高分子・低分子化合物はリンパ管を通して速やかに回収されるが、癌組織周辺にはリンパ管は未発達である。従って、漏れ出た高分子物質は回収されることなく、癌組織周辺に滞留する。これはEPR 効果(Enhancement Permeability and Retension Effect)と呼ばれている。すなわち、高分子プロドラッグとは、高分子という乗り物に薬物を載せて(この状態では活性も毒性も示さない)目的地まで運び、目的地である癌細胞へ到達した後に、薬物と高分子の結合が切断されて、活性を復活した薬物が遊離され、癌細胞を攻撃するという仕組みである。キャリヤーとなる高分子化合物は、十分な水溶性を有しており、人体に対し無毒で、キャリヤーとしての目的を達成した後に生体内で分解・吸収されるものが望ましいことは言うまでもない。

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受動的ターゲティングと認識素子を用いた積極的ターゲティング

 先に述べた手法は、高分子の分子サイズと癌組織自体の性質という非特異的な相互作用を利用したものであり、「受動的ターゲティング」(パッシブ・ターゲティング)と呼ばれている。これに対して、特定の臓器や細胞に認識される認識素子(糖鎖・抗体など)を利用して、より積極的に薬物を目的部位へ運ぶ手法は、「積極的ターゲティング」(アクティブ・ターゲティング)と呼ばれている。
 高分子プロドラッグは、薬物と同じ分子鎖に認識素子を結合でき、アクティブ・ターゲティングを実現するのにも適している。ある種の細胞の細胞膜上には特定の糖鎖を認識する受容体(レセプター)が存在しており、例えば肝実質細胞にはガラクトースという糖を認識するレセプターが存在することなどが良く知られている。我々は、この糖鎖の認識能に着目し、糖鎖を認識素子とした高分子プロドラッグによるアクティブ・ターゲティングについても研究を展開している。

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分子集合体・微粒子を用いたDDS

 この他にも、このグループでは生分解性高分子合成チームとの連携により、生分解性高分子が集合した分子集合体やミクロスフェア・ナノスフェアと呼ばれる微粒子を利用したDDSについても検討を行っている。これらの手法では、薬物を内包させた集合体・微粒子の大きさや内部構造・表面構造の設計により、薬物のより安定な運搬体として、あるいは薬物を最適な濃度供給するリザーバーとしての役割が期待できる

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